春の訪れとともに、新たなスタートを切る新入社員が職場に加わる季節です。多くの人が期待と不安を胸に社会人生活をスタートさせ、時間をかけて職場に慣れ、仲間として組織に根づいていきます。一方で、その中の一部は、数ヶ月以内に離職を選ぶこともあります。全体でも研修の機会を作り、個別でもしっかりフォローしているはずなのに、なぜかうまくいかない。なぜか、早くに離れてしまう。こうした状況に対して、現場からは「最近の新入社員は受け身だ」「自分で考えない」といった声も聞こえてきます。とはいえ、それがすべての理由とは言い切れません。そこには、表面的な印象では見えない「キャリアの出発点にある揺らぎ」や「関係性の小さなすれ違い」が潜んでいるのかもしれません。今回は、新入社員の本音や実態に目を向けながら、
「なぜ定着できないのか」「なぜ活躍につながらないのか」を紐解いていきます。
目次
■なぜ定着できないのか?その背景にある“見えにくい本音”とは
- やりがいを求めるものの、なかなか見つからない戸惑い
- 人間関係が気になりすぎて、踏み出せない不安
- 受け身に見えて、実は考えすぎて動けない迷い
- 正解を出さなければと囚われ、かえって動けなくなるプレッシャー
■新入社員が活躍する上でつまずく4つの理由と関わり方のヒント
- キャリアの“軸”が未確立のまま入社している
- 「早く成果を出さなければ」と焦る
- “学ばせる”体制が“引き出す”体制になっていない
- フィードバックの質と頻度が不足している
■キャリアの出発点に寄り添う[ありたい姿]を引き出し、個と組織をつなぐ育成
■新入社員あるある4コマ漫画「受け身の中身」
なぜ定着できないのか?
その背景にある“見えにくい本音”とは
① やりがいを求めるものの、なかなか見つからない戸惑い
「この仕事、意味あるんですか?」「誰でもできる仕事に自分の価値を見出せない」といった声が出る背景には、やりがいを“与えられるもの”と捉える意識が、少なからず影響しているのかもしれません。自ら意味を見出す経験がまだ少なく、「合っていないのでは」と感じやすくなっていることも考えられます。
―こんな時の対応策は?―
- “この仕事がどうつながっているか”を丁寧に伝える(目的・意義の共有)
- 初期段階でも「ありがとう」「助かったよ」とフィードバックする(自己効力感の形成)
- 「どんなときにやりがいを感じる?」と本人に問いかける(内省を促す)
やりがい、捉え方について都度説明するのではなく、本人が意味を自ら見出せるような環境を整えることが大切です。
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② 人間関係が気になりすぎて、踏み出せない不安
「質問していい雰囲気じゃない気がして…」「飲み会が苦手なので、距離を感じます」といった声が、実は“うまく溶け込めていない”サインであることも多いもの。信頼できる人がいるか、相談できる環境があるかどうかが、その後の適応や定着に大きく影響します。
―こんな時の対応策は?―
- 意識的に“声かけ”や“雑談”の機会をつくる(関係構築の種まき)
- 「いつでも聞いてね」ではなく、“今どう?”とこちらから問う
- ランチや1on1など、カジュアルな対話の場を設定(心理的安全性の醸成)
人間関係の安心感があってこそ、新入社員は職場に自分の居場所を感じられるようになります。
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③ 受け身に見えて、実は考えすぎて動けない迷い
「受け身だ」と見られがちな新入社員の中には、「どこまで動いていいか分からない」「失敗したらどうしよう」と迷っているだけの人もいます。主体性がないのではなく、不安や遠慮から動けずにいることも少なくありません。
―こんな時の対応策は?―
- 「こういう時はどう判断すると思う?」と考える機会を与える(自律性支援)
- 判断の余白と“間違っても大丈夫”という許容の姿勢を見せる
- 小さな仕事を任せて、成功体験とフィードバックを重ねる(段階的成長)
自ら動けるようになるには、“正しさ”よりも“考える機会”を得られる関係性が必要になります。
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④ 正解を出さなければと囚われ、かえって動けなくなるプレッシャー
「間違ったら評価が下がるのでは」「正しいやり方じゃないと不安」といった声に表れているように、正解主義にとらわれて動けなくなる新入社員もいます。失敗に慣れていない彼らにとって、正解が分からない状況は強いストレスとなります。
―こんな時の対応策は?―
- 「これは正解が一つじゃない仕事だよ」と前置きしておく(不安の軽減)
- 試行錯誤の姿勢を肯定する言葉をかける(「よく考えて動いたね」)
- 上司・先輩が自らの失敗談を共有する(安心感の提供)
正しさよりも“まずやってみる”ことを受け止める空気が、行動の一歩を支えるはずです。
新入社員が活躍する上でつまずく
4つの理由と関わり方のヒント
① キャリアの“軸”が未確立のまま入社している
「何がしたいか正直わからないけど、雰囲気が良さそうだったから」 そんな理由で入社するケースも少なくありません。就職活動がゴール化し、自分の価値観やビジョンの明確化ができないまま社会人生活が始まっているのです。
―こんな時の対応策は?―
- 定期的に「どんな働き方をしたい?」と問いを投げる(価値観の言語化支援)
- 「この仕事でどんな力がついていると思う?」と内省を促す(意味づけのサポート)
- キャリア面談や1on1など、振り返りと対話の時間を設ける
キャリアの軸は、教えるものではなく、一緒に探っていくものかもしれません。
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② 「早く成果を出さなければ」と焦る
「迷惑をかけたくない」「周囲より遅れている気がする」といった焦りが、無理な頑張りや自信喪失につながることがあります。短期間で成果を求めるあまり、プロセスの中での成長を実感できず、自己評価が下がってしまうこともあります。
―こんな時の対応策は?―
- 短期的な成果ではなく“プロセスの成長”を伝える(成長の可視化)
- 「◯◯ができるようになってきたね」と小さな変化に気づく
- 評価軸や期待値を明確に伝え、“安心して取り組める土台”を整える
新入社員に必要なのは、“期待されていること”よりも、“今の自分を認めてもらえること”かもしれません。
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③ “学ばせる”体制が“引き出す”体制になっていない
「教えてはいるのに、なぜか響いていない」 その背景には、“与える”ばかりの育成が、“自ら考える力”を育てる機会を奪っている構造があるのかもしれません。
―こんな時の対応策は?―
- マニュアルの背景や目的まで伝える(納得感の提供)
- 「あなたはどう思う?」と問いかける(対話の促進)
- OJTを“教える場”から“一緒に考える場”へシフトする
「教える」から「引き出す」への転換が、育成の質を大きく変える鍵になります。
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④ フィードバックの質と頻度が不足している
「ちゃんとできているか分からないまま1日が終わる」 これは、多くの新入社員が抱える悩みのひとつです。特にポジティブなフィードバックが少ない環境では、自分の働きが認められていないと感じ、意欲が下がってしまうリスクがあります。
―こんな時の対応策は?―
- プロセスや努力、挑戦への肯定を意識的に伝える(存在承認)
- フィードバックは“タイムリー・具体的・肯定的”を意識する
- 「できていること」をきちんと伝える(安心感の提供)
評価の前に、“見てもらえている”という実感が、新入社員の安心と意欲につながります。
キャリアの出発点に寄り添う
[ありたい姿]を引き出し、個と組織をつなぐ育成
今、新入社員の育成現場では、「教える」「従わせる」だけでは通用しない時代に突入しています。求められているのは、正解を与えることではなく、一人ひとりの“今の状態”や“感じていること”を丁寧にすくい上げ、対話を通じて、本人が自らの答えを見つけられるように支援していく姿勢です。
社員一人ひとりの“ありたい姿”を丁寧に引き出し、「自分はどう働きたいのか」「何に価値を感じているのか」といった想いを言語化するプロセスを支えること。そして、その想いが組織の中でも意味づけされ、互いの方向性をすり合わせながら、共にキャリアをつくっていけるよう、日々の中で対話を重ねていくことが重要です。
そのためには、上司や先輩が“答えを与える存在”から、“ともに考える伴走者”へと、育成スタンスをアップデートする必要があります。キャリアの出発点に立つ新入社員の揺らぎや迷いを否定せず、関係性の中で少しずつ“自分らしいキャリア”を築いていけるよう寄り添っていく。これこそが、これからの時代に求められる育成のあり方ではないでしょうか。
仕事あるある4コマ漫画「はたらくわたし」より
👑 新入社員あるある4コマ漫画👑
