組織の課題が「対症療法」に終始してしまうのはなぜか。本質を避ける心理的メカニズムやバイアスをひも解き、根治に向けた第一歩としての「心理的安全性」の重要性を考えます。
「問題の根っこはわかっているのに言えない」「本当はこうした方がいいのに、上が納得してくれない」――そんな経験はありませんか。社会では対症療法が優先されがちで、根治に向けた一歩を踏み出せず同じ問題を繰り返すことも多いものです。なぜ人は本質を避けるのか、なぜ集団になると“丸く収める”方向に流れるのか。今回は行動経済学や心理学、そして日本の組織文化の視点から、その背景と打開のヒントを探っていきます。
目次
- なぜ私たちは「根治療法」を避けるのか
- 集団になると“本質”からズレる理由
- 根治に向けた第一歩と心理的安全性
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1. なぜ私たちは「根治療法」を避けるのか
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「対症療法」で場をしのぐ――これは決して珍しくありません。根本解決を避ける背景には、人の心理と組織文化に共通する3つの要素があります。
現状維持バイアス
人は変化より「今のまま」を好む傾向があります。たとえ非効率でも「慣れている安心」を優先し、形骸化した制度を放置してしまうのはその典型です。
損失回避性
人は「得をする」より「損をしない」に強く反応します。根治には労力や時間がかかるため、「面倒なことになる」損失を避ける直感が働きやすいのです。
責任回避・合意重視の文化
日本の組織では「誰の責任か曖昧」「合意に時間がかかる」という構造が根治を妨げます。“空気を読む”文化の中では、少数意見やリスク指摘が埋もれ、建設的な議論が“やらない理由探し”へと変わってしまうのです。
この3つが重なり合うことで、目の前を丸く収める「対症療法」に流れやすくなります。
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2. 集団になると“本質”からズレる理由
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一人なら腹をくくって根治に向き合えることも、複数人が関わると“見えない力”に流されます。
- 忖度(言いたいけど言えない)
- パワーバランス(言っても通らない)
- 空気の読み合い(合意形成が優先)
- 利害関係(これを言わない代わりに、自分の痛いところは目を瞑ってもらう)
- 保身(失敗したくない・責任を取りたくない)
- 諦め(今まで上に対して言ってきたけど、何も変わらなかった)
こうした力学が、問題の本質に切り込むよりも「波風を立てない」方向へと舵を切らせます。本来の議論が、いつしか“挑戦を避ける合意形成”に変わってしまうのです。
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3. 根治に向けた第一歩と心理的安全性
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ではどうすれば「根治」に踏み出せるのか。そのカギは、まず自分たちに働くバイアスや組織の癖を自覚することです。そのうえで、次のような仕組みが助けになります。
- 安心して“違和感”を言える心理的安全性
- 短期成果にとらわれすぎない評価軸
- 問いを立て直す場の設計(例:リトリート、1on1、振り返り研修など)
- 根本原因に目を向ける“問いの質”を上げる工夫(例:「なぜを5回問う」)
さらに、失敗を「隠すもの」ではなく「武勇伝」にできる文化が不可欠です。私自身、企画したイベントで参加者ゼロという失敗をしましたが、「それ、武勇伝にすればいいじゃん」という言葉に救われました。挑戦や失敗を共有できる組織こそ、本質的な変化を起こせるのだと思います。心理的安全性は、その挑戦を支える土壌になるのです。
エモリのつぶやき#10 は、ここまで。
対症療法ではなく根治を選ぶには、人間の心理や組織文化を理解し、心理的安全性を育むことが不可欠です。問題の根っこに踏み込む勇気と、それを受け止める土壌が揃ったとき、組織は本当に変わり始めます。あなたの職場に、小さな一歩を生み出すヒントになれば幸いです。

「エモリのつぶやき」は、働く毎日の中でふと立ち止まった瞬間に浮かぶ気づきや発見を、
肩ひじ張らずに言葉にして届けるコラムです。
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企画・編集:『SIMBAUNIVERSITY』編集部
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