採用は「選考」から「共創・共鳴」へ|定着につながる選び合うパートナーシップとは

定着を生む採用の鍵は?誰と未来を実現するか「ビジョンの交差点」の見つけ方

· チームマネジメント,新入社員定着,離職防止,採用,組織変革・改革

「あなただから一緒に働きたい」そんな思いが交差する関係が築けたとき、働くことには意味とエネルギーが宿ります。
スキルや経験のマッチングだけでは、働き続ける理由まではカバーしきれません。いま求められているのは、“選考”ではなく、“共に未来を描ける相手かどうか”を見極める視点です。採用とは、組織と個人が「誰と、どんな未来を実現するのか」を描き合う共創の入口。本コラムでは、「定着」につながる“選び合うパートナーシップ”のあり方を、ビジョンの交差点を見つけるための視点とともに紐解いていきます。

目次

■合致したはずの採用の落とし穴|定着を左右する“見えない前提”のズレ

■企業が持つべき視点と採用基準「この人だから一緒に働きたい」と思えるか

■求職者が“必然性”で選ぶ入社条件「この会社だからここで働きたい」と思えるか

■選考を「共創の入口」に変えるには選び合う採用への実践ヒント

■採用あるある4コマ漫画「あなただから一緒に働きたいんだ」


合致したはずの採用の落とし穴|定着を左右する“見えない前提”のズレ

採用時には「この人ならきっとうまくいく」と、企業も本人も前向きに期待を寄せていたはずなのに、いざ一緒に働いてみると、どこか噛み合わない――。そんな違和感を抱いた経験はありませんか?スキルや人柄に問題があるわけではない。だけど、なぜかうまくいかない。そこには、「合致しているはず」と思い込んでいた採用の“見えない落とし穴”があるのかもしれません。

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1,“自律性”をめぐる前提のすれ違い

企業側は「自律的に、すぐに動ける人」を想定して採用したものの、実際には指示を待つ傾向が強く、戸惑いを感じる場面も少なくありません。
一方で、応募者は「丁寧に教えてもらえる環境」が整っていると認識しており、こうしたすれ違いが、関係の出発点を揺るがす要因になり得ます。反対に、応募者が「積極的に動くことが良い」と捉え、自分なりの判断で行動した結果、職場の進め方と噛み合わず、チームとの関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。“受け身すぎる”ことも“能動すぎる”ことも、「なぜそう行動しているのか」を理解し合えていない状態では、スタートの段階からズレが生じやすくなります。

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2,スキルがある=活かせるとは限らない

「前職では活躍していた」「スキルも豊富」――そうした人材を迎えたはずなのに、十分なパフォーマンスが発揮されないケースもあります。その背景には、組織の風土や人間関係、働き方のスタイルとの“相性”が影響しているのかもしれません。さらに言えば、「その人の力を活かしたい」と思っていても、現場に余裕や育成の体制が整っていないことも少なくありません。期待はしていたものの、フォローが追いつかず、結果として両者の関係に小さな溝が生まれてしまうこともあります。

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3,「伝えたつもり」「分かっていたつもり」の共有ミス

採用担当は、「業務内容も会社の方針も、きちんと説明した」つもりになっている。応募者の側も、「理解している」つもりで入社してくる。しかし、実際には、配属後に「思っていたより業務の幅が広い」「想像以上にスピード感がある」といったギャップに戸惑うケースが少なくありません。“説明されたこと”と“実際に体験する現場”のあいだには、どうしても差が生じやすいものです。だからこそ、「伝えた」「聞いた」で終わらせず、お互いの理解度をすり合わせる対話が、より丁寧に求められているのではないでしょうか。

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4,入社動機の奥にある“必然性”が共有されていない

面接で「志望動機は?」と尋ねると、聞こえのよい答えが返ってくることは少なくありません。たとえば「御社の社風に惹かれました」「成長できそうだと思いました」など、印象としては好意的です。しかし、表現の裏側にある本当の動機や、本人なりの意味づけにまでは踏み込めていないケースもあるのではないでしょうか。本当に大切なのは、「なぜこの会社なのか」「ここで何を実現したいのか」という、“この会社で働く必然性”が本人の中にあるかどうか。それがあいまいなまま採用してしまえば、小さな違和感や想定外の出来事をきっかけに、離職につながる可能性もあります。

企業が持つべき視点と採用基準|「この人だから一緒に働きたい」と思えるか

スキルや経歴が申し分なくても、「一緒に働きたい」と心から思えるかどうか。それは、採用の現場で見過ごされがちな問いかもしれません。採用基準を「活躍できそうか」「戦力になりそうか」だけで測っていると、目の前の条件には合っていても、関係性としての“伸びしろ”や“育ちしろ”を見落とすことがあります。

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● 採用は“評価”ではなく、“関係性のスタート地点”

企業が採用基準をつくる際、どうしても「成果を出してくれそうか」「自律的に動けるか」など、既に備わっている能力や経験を中心に評価してしまいがちです。もちろん、それも大事な視点です。しかし、もうひとつ大切なのは、この人とどんな関係を築いていけそうか、という“関係性の可能性”を見る視点です。たとえば、「まだ不完全でも、一緒に悩みながら進んでいけそうだ」と思える相手。

「問いかけたときに、ちゃんと考えようとしてくれる人」

「今できなくても、考え方に共感できる人」

そうした関係の土台は、入社後の成長や信頼構築の土台にもなります。

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● 面接で問いたいのは、「この人がどんな未来を描いているか」

企業として「こういう人と一緒に働きたい」という関係性のイメージが曖昧なまま面接に臨むと、結局、「答えが上手」「印象が良い」など表面的な評価に流れがちです。面接とは、スキルチェックではなく、お互いの未来像のすり合わせでもあります。

「どんなことに面白さを感じるのか」

「どんな働き方に違和感があるのか」

そういった問いを通して、会社と本人のビジョンの接点を探ることができるはずです。

「一緒に働きたいと思えるか」という問いは、曖昧なようでいて、実はその人の“これまで”ではなく、“これから”に目を向けた問いでもあります。

求職者が“必然性”で選ぶ入社条件|「この会社だからここで働きたい」と思えるか

求職者にとって、企業選びの基準は実に多様です。仕事内容、待遇、成長機会、人間関係、通勤時間……。しかし、それらの条件だけで選ばれた場合、その会社で働き続ける理由もまた“条件次第”になってしまいがちです。「条件が合えばどこでもいい」ではなく、「この会社でなければならない理由」――つまり“必然性”を持って選ばれているかどうか。この視点こそが、採用後の関係性や定着を左右する大きな鍵になります。

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● 「ここを選んだ理由」が、自分の言葉で語れるか

面接では、「志望動機を教えてください」と尋ねれば、多くの応募者が何らかの答えを用意しています。しかし、それが自分自身の価値観や人生観とつながっているかというと、必ずしもそうとは限りません。

「社風が合いそう」

「成長できそう」

こうした答えの裏に、「自分は何に価値を感じ、どんな未来を描いているのか」が見えているかどうかが、本質的な判断軸になります。

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● “正解”ではなく、“実感”を大切にする問いかけを

求職者自身が自分の言葉で「ここで働きたい理由」を語れていない場合、企業側がその背景をたずねたり、考えるきっかけを渡すことができます。たとえば、

「あなたの経験や想いと、当社のどんな部分がつながっていると感じましたか?」

「仮に他の会社と迷ったとしたら、最後の決め手は何になりそうですか?」

そんな問いを投げかけることで、条件ではなく意味で選ぶ視点に気づいてもらえるかもしれません。その人にとって「ここで働く意味」が見つかっていれば、多少の困難があっても簡単には揺らぎません。選ばれる企業になるためには、“選ばれる理由”を本人の言葉で描いてもらえるような関係づくりが必要なのです。

選考を「共創の入口」に変えるには

採用とは、ただ人を選ぶプロセスではありません。企業と個人が、互いに「この人と」「この場所で」と思い合える関係性を築いていく。その最初の一歩です。それが、採用の本来の役割ではないでしょうか。

スキルや経験だけでは語れない価値観や志向、そして「どんな未来を一緒に描きたいか」という視点を交わし合える関係。

それは、入社後の定着や活躍だけでなく、働く意味や自信を支える源にもなっていきます。そのために必要なのは、“条件が合えば採用”“条件が良ければ入社”という一方向の視点を超えて、お互いに「なぜこの人か」「なぜこの会社か」を問い合い、確かめ合うプロセスへと変えていくことです。

たとえば、面接の場を単なる評価の場ではなく、「関係性の可能性を探る対話」として位置づけてみる。候補者に対して、「この会社が目指していること」や「どんな仲間と仕事を進めたいか」を、言葉で丁寧に伝えてみる。

そうしたやり取りがあるからこそ、応募者も自分の想いや経験と照らし合わせながら、「ここで働く意味」を描けるのではないでしょうか。

採用とは、未来の“共創関係”を育てるはじまり。

その視点を持つことが、企業と個人のあいだに、揺るぎない信頼と、選び合う土台を築いていくのです。

仕事あるある4コマ漫画「はたらくわたし」

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企画・編集:『SIMBA UNIVERSITY』編集部

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当社では、個人が描くキャリアの方向性と、組織のビジョンを重ね合わせるアプローチとして、「クロスキャリア・マネジメント」を提唱しています。また、社員一人ひとりが自分らしさを活かしながら、価値観や“ありたい姿”を言語化し、主体的にキャリアを描いていくためのキャリア開発プログラム、「じぶん戦略」もご提供しております。組織と個人が、ともに成長し合える関係づくりにご関心のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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