心理的安全性が失われた職場では、発言を控え、とりあえず従うイエスマンが生まれる。誰もが黙り、何も生まれない。そんな静かな異常に、あなたは気づけていますか?
今回のテーマは「心理的安全性」。職場で意見を出すことが、否定や叱責のリスクになると、人は次第に発言を控え、“とりあえず従う”ようになります。そうして生まれるのが、イエスマンです。一見、素直で従順に見えるかもしれませんが、その裏には諦めや無力感が隠れていることも少なくありません。誰もが黙りはじめた職場では、やがて対話が止まり、組織全体が静かに非活性化していきます。4コマ漫画『はたらくわたし』を手がかりに、その変化の兆しと背景にある心理を探っていきます。
目次
- 心理的安全性が揺らぐとき、何が起きているのか
- 4コマ漫画「ダメージ受けるくらいなら」
- <考察1>“かしこまりました”の裏にある沈黙の理由
- <考察2>“普通です”に潜む温度差と、関係のズレ
- サンボンガワが読み解く「心理的安全性」とは
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1. 心理的安全性が揺らぐとき、何が起きているのか
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――心理的安全性とは、「自分の意見や気持ちを、安心して表現できる状態」を指します。この状態が崩れ始めると、人は無意識のうちに“守り”の姿勢に入らざるを得なくなります。
たとえば、意見を伝えた直後に「そんなの常識でしょ」「だから君は甘いんだ」といった返しを受けた経験があると、人は「もう余計なことは言わないほうがいい」と学習してしまいます。こうして、黙ることが最も身を守るために適切な選択肢となり、徐々に発言を控えるようになるのです。
「最近、部下が静かだな」「あまり話しかけてこなくなったな」 そんな変化を感じたとき、その背景には心理的安全性の低下が潜んでいるかもしれません。最初はたまたまの反応だった言動が、いつしか職場の“当たり前”となり、文化そのものを変えていくのです。やがて、「これは言っても大丈夫だろうか?」と相手の反応をうかがいながら発言するようになったり、自ら言葉を選んで控えたりする場面が増えていきます。
結果として、職場では当たり障りのない表面的な報告や確認が主となり、違和感や異論の共有が無くなっていきます。心理的安全性の揺らぎとは、まさにその「静かな異変」が始まる兆しでもあるのです。
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2. 4コマ漫画「ダメージ受けるくらいなら」
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3. <考察1> “かしこまりました”の裏にある沈黙の理由
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4コマ漫画の後半、「かしこまりました」「それでいいです」と繰り返す部下の姿が描かれます。一見、素直に見えるその言葉の裏側には、「言っても無駄」「反論したら面倒」といった心の声が潜んでいます。これらの反応は、過去のコミュニケーション体験から学習された“自己防衛”です。
違う意見を述べても否定される、話が長くなって疲弊する、といった経験が続くことで、やがて「もう傷つきたくない」「黙っていた方が楽だ」という思考になり、“従うふり”を選ぶようになります。
「かしこまりました」は、必ずしも納得や共感のサインではなく、「これ以上のやりとりを避けたい」という無言のメッセージかもしれません。コミュニケーションが表面的になったときこそ、その背景にある“言えなさ”に目を向けることが求められるのです。
そしてもし、その背景に気づけず、部下の沈黙を「従順さ」や「落ち着いた」と誤認してしまえば、関係の深まりは遠ざかるばかりか、信頼の回復をさらに難しくしてしまうかもしれません。
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4. <考察2>“普通です”に潜む温度差と、関係のズレ
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「元気?」という上司の問いかけに対して、部下は「普通です」と返すこの一コマ。会話は成立していますし、表面的には穏やかで丁寧なやりとりにも見えます。しかしその言葉の奥には、微妙な温度差や距離感がにじみ出ています。
この「普通です」という返答には、上司との距離を保ちたい気持ちや、本音を避けようとする防衛的な心理が潜んでいる可能性があります。
一方で上司は、「特に問題がないサイン」として受け止め、それ以上踏み込まずにやりとりを終えてしまう。こうした“すれ違いの放置”が積み重なることで、対話の本質は少しずつ薄れていきます。
考察1では、「言えなくなる部下」の内面に焦点を当てましたが、ここでは「聞きにいかなくなる上司」の変化が浮き彫りになります。言葉が交わされていても、本音には触れられていない。そんな関係性が常態化していく職場は、やがて静かに非活性化していくでしょう。
輝きは消え、自分らしさを引っ込めて、その場をやり過ごす…。そして、ついに1人、また1人と去っていく…。まるでホラーのようです。
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5. サンボンガワが読み解く「心理的安全性」とは
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「心理的安全性」という言葉が広まってきた今、私自身、どこか引っかかるような違和感を抱くことがあります。心理的安全性にとらわれすぎて、本来の目的や関係性の本質が見えなくなってしまっているのではないか、という感覚です。「心理的安全性」という言葉だけが一人歩きし、「これは言っても大丈夫?」「下手に関わったら面倒かも」とビクビクと躊躇するような、“逆・心理的安全性”ともいえる空気を生み出しているようにも感じます。
この4コマ漫画は、「心理的安全性というものを意識することで可能性が広がり、すれ違いも減らせるんじゃないか」という想いを込めて描きました。決して、言葉や対応を選びに選んで、相手を傷つけないよう細心の注意を払いつづけろ、ということではありません。心理的安全性は、誰か一方が過剰に気をまわしてつくる“特別扱いの空間”でもなければ、「これを言ったらハラスメントかも…」と必要以上に身構える関係でもないはずです。
抑制することが重要なのではなく、互いに理解し合おうとする姿勢を持ち続けること、そして関係性を共に育てていくという視点が欠かせないのではないかと私は思うのです。捉え方や感じ方、価値観の違いに対して、もう少しお互いに視野を広く持つことができたなら…。自分の正しさにこだわらず、相手の背景や意図に目を向けることができたなら…。そうすれば、関係性はもっと自由に、しなやかに変化していけるのではないかと。
また、心理的安全性は、特別なスキルでもなければ、完璧な空気をつくることでもないと思います。相手のことを想って、自分本位にならずに「ちゃんと伝える」「ちゃんと受け取る」。その当たり前が、実は一番むずかしいのです。
しかし、向き合うことをあきらめて黙ってしまう前に、もう一言交わせる関係でいれたら…。そうすれば、たとえまだ心理的に完全な安全状態じゃなかったとしても、心理的安全性が育ちはじめる合図なのではないかと、私は思うのです。
4コマ革命#3は、ここまで。
次回以降も、4コマ漫画「はたらくわたし」を通じて、職場に潜むリアルな違和感と、その背景にある本質を考えていきます。

「4コマ革命」は、職場の“あるある”を起点に
その背後に潜む本質を描き出すコラムシリーズです。
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企画・編集:『SIMBAUNIVERSITY』編集部
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