業務の確認、日常的なフォロー、関係構築、キャリア支援など、1on1ミーティングは、多様な目的で職場に根づき始めています。しかし、その質や意味に悩む声も少なくありません。現場の声を拾ってみると、「形式的で意味を感じない」「気をつかって疲れる」といった率直な戸惑いがある一方、「うまく機能している実感がない」「真剣に向き合っているのに、対話が深まらない」といった、丁寧に取り組んでいるからこそ生まれるジレンマも見えてきます。
目次
- やっているのに届かない…その背景
- 1on1でよくある5つの“空回り”
- 誰のための1on1なのか?
- 4コマ漫画はたらくわたし「ありがたいけど、しんどいです」
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1. やっているのに届かない…その背景
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形だけの1on1にならぬよう、しっかり時間を確保し、毎回丁寧に問いかけ、課題の整理も行っている。それなのに、部下の反応は薄く、対話が広がらない…。そんな場面に、心当たりはないでしょうか。
その背景には、「やっているのに伝わらない」「関わっているのに届かない」といった、“空回り”の構造が潜んでいます。1on1をきちんと続けている、問いも工夫している、それでもなぜか噛み合わない…。そんなときは、やり方や努力の量ではなく、「対話の土台」に目を向けてみる必要があるのかもしれません。
上司と部下、それぞれの立ち位置や空気の流れ、関係性の構造にズレがあると、どれだけ言葉を交わしても、信頼や自律といった本質には届きにくくなります。いま目の前で交わしている1on1は、「本当に“つながる対話”になっているか?」 その問いを持つことから、関係性の見直しが始まっていきます。

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2. 1on1でよくある5つの“空回り”
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1on1が意図とは裏腹に、「うまくいかない状態」 に陥ってしまう、よくある5つの構造をご紹介します。
■「問い」が評価に聞こえてしまう
丁寧に問いかけているつもりでも、部下の側には「こう答えなければ」「前向きなことを言わなきゃ」と受け取られてしまうことがあります。問いが「内省を促すため」ではなく、「上司の期待に応えるため」と感じられると、部下は“正解探し”に意識を奪われ、本音が遠ざかってしまいます
■「主語」がずっと上司のまま
問いを投げ、フィードバックし、アドバイスをする。そんな上司主導の1on1が続くと、部下は受け手の立場にとどまり、自分の内側を探る時間を持ちにくくなります。本来、1on1は部下が主語になるべき時間。主役の交代が起きない対話は、一見成立しているように見えても、信頼や自律にはつながりにくいのです。
■1on1自体の「成果」を求めてしまう
「せっかくの時間だから意味のある話を」「気づきを持ち帰ってほしい」と願うあまり、上司の側が、1on1の成果を出そうとする姿勢に力が入りすぎることがあります。その空気は、部下にとって「何か言わなきゃ」「ちゃんと話さなきゃ」というプレッシャーとなり、かえって表面的な対話に陥ってしまいます。
■「実施すること」が目的化している
「ちゃんと週1回やっている」「予定通り回せている」 そのように、“実施すること自体”が目的となると、対話の中身や関係性の変化への意識が薄れ、「決まっているから続けているだけの場」へと形骸化してしまうリスクがあります。
■「ゆるさ」が目的をぼかしてしまう
一方で、「プレッシャーを与えないように」「自由に話せる場にしよう」と、和やかさを重視しすぎた結果、毎回雑談だけで終わってしまうこともあります。こうした時間が積み重なると、部下の側には「この時間で何を話せばいいのか分からない」「何のためにやっているのか見えない」といった戸惑いが生まれやすくなります。もちろん雑談も大切ですが、「この場で何を話すのか」という意識が持てていないと、対話の深まりにはつながりにくくなってしまいます。

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3. 誰のための1on1なのか?
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1on1という場を、「部下のための時間」として設けているつもりでも、いつのまにか「上司が管理するための時間」にすり替わっているケースも見受けられます。部下の話題を取り上げ、成長や不安にも触れている…。にもかかわらず、なぜか部下が変化しない、自律につながらない。そうした場面では、話している内容ではなく、「その時間が誰のために、誰によって運ばれているか」という構造にズレがあるかもしれません。
本来、1on1は「部下が主語」の場です。上司の問いに答える時間ではなく、部下が自分の状況や考えを言葉にしながら、気づきや方向性を見出していくプロセスであるはずです。たとえば、話題は部下に関する内容だったとしても、
- 会話の流れを上司が握っている
- 上司が「引き出すこと」に注力している
- 上司が「把握し判断するため」に聞いている
そんな構造になっていると、対話は「上司によって進められる場」にすり替わっていきます。つまり、話題の主は部下であっても、「場の主導権」や「目的の重心」が上司側にあるという状態です。部下の内面に触れるような会話が交わされていても、それを部下自身が受け止め、意味づけ、持ち帰る場になっていなければ、1on1の本来の目的(例えば、自律支援や信頼関係の構築)は果たされたとは言えません。一方で、上司が「話を引き出す側」にとどまり続けると、1on1は「話を聞いてあげる時間」「把握してあげる時間」になりやすくなります。しかし、これでは、部下の自発性や内省を育てるという本来の狙いからは、少しずつ遠ざかっていきます。
大切なのは、問いの数や会話のボリュームではありません。「この1on1は、誰のために行われていて、誰の視点で進められているのか?」その軸がぶれていないかを見直すことが、より本質的な改善につながります。まずは、そうした視点を持てているかどうかが、1on1の質を左右する大きな要素のひとつです。上司の問いかけや関わり方も、この軸が定まっているかどうかで、相手への伝わり方が大きく変わってきます。“誰のための1on1か?”という問いを持ち続けること。それが、形だけに終わらない対話を育む土台となり、空回りや一方通行に陥らない関係づくりにつながるのではないでしょうか。

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4. 4コマ漫画はたらくわたし
「ありがたいけど、しんどいです」
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企画・編集:『SIMBAUNIVERSITY』編集部
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