企業の理念とは、企業が目指す価値観や目的を示し、社員やステークホルダーに「存在意義」や「社会的使命」を伝えるものです。理念を掲げることで企業全体の方向性が一致し、社員のモチベーションや判断基準が明確になります。また、顧客や取引先に対し、信頼性やブランド価値を高める役割も果たします。しかし実態としては、理念が形骸化し、日々の活動に反映されないことも少なくなく、個人のパフォーマンスや就業継続の意向、エンゲージメントにも影響を及ぼす可能性があります。多くの企業で「理念の浸透」を推進していますが、押しつけるのではなく、多様性を尊重しつつ理念の方向性を共有する柔軟な姿勢が求められるのです。
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理念浸透の実態
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パーソル総合研究所による調査では、企業理念の浸透度の実態は約40%との結果が出ています。また、設立年数が古い企業ほど浸透度が低く、規模が大きい企業ほど高い。業績の悪い企業では理念・制度の浸透度が低い。といった、設立や業績での傾向が見受けられます。
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■企業理念の浸透実態
・理念への理解41.8%
・理念への同意44.5%
■企業理念に対するポジティブな印象
・理解しやすい
・明確さ
・わかりやすさ
■企業理念に対するネガティブな印象
・現場感の欠如
・現場との一貫性の欠如
・綺麗ごと感
出典:パーソル総合研究所「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」より
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企業理念に対するポジティブな印象に関しては、「内容が分かりやすかった」など「明確さ」を感じるものが多く、ネガティブな印象は、「内容が綺麗ごとばかりだ」などの「綺麗ごと感」や、「現場の現実がかみ合っていない」などの「現場との一貫性欠如」が高い要因となっています。やみくもに「わかってもらいたい!」と浸透を促しても、不明確な一方通行では単なるスローガンや形だけの存在となってしまいます。まずは、現在掲げている理念の実態を把握し、時代や現場に即した理念の在り方を再検討することが必要です。
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理念への共感とエンゲージメント
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冒頭で、企業理念はエンゲージメントにも影響を及ぼすことをお話しましたが、企業広報戦略研究所が実施した調査では、理念に関する共感や行動が、エンゲージメントの高低に相関しているという結果を公開しています。
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■理念への共感
自社の理念を「良いものだと思う」と回答した「高」エンゲージメント層 92.7.5%
自社の理念を「良いものだと思う」と回答した「低」エンゲージメント層 29.2%
■理念への行動
自社の理念を「意識して行動している」と回答した「高」エンゲージメント層 86.9%
自社の理念を「意識して行動している」と回答した「低」エンゲージメント層 19.7%
出典:株式会社電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所「第3回インターナルブランディング®調査」より
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理念への共感や行動が社員のエンゲージメントと密接に関連していることが明らかです。エンゲージメントが高い層では理念に対する強い共感と行動が見られる一方で、エンゲージメントが低い層では理念に共感せず行動も伴わない傾向が顕著です。つまり、エンゲージメントを高め、社員の主体的な行動を促すには、理念への共感が重要であるとわかります。
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理念が浸透しない原因
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理念が浸透しない原因は、社員が理念を日常業務で実感しにくいことや、形だけ掲げられて具体的な行動に結びついていないこと、また一方的な押しつけ感などが挙げられます。
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■企業理念が浸透しない原因
- 理念の意味が不明確で、理解しにくい。
- きれいごとに聞こえ、実感が湧かない。
- 現場の実態と乖離しており、現場で活かせない。
- 既視感のある言葉ばかりで、印象が薄い。
- 具体的な行動指針が示されていない。
- 理念が長すぎて覚えられない。
- 言動と理念が一致せず、説得力に欠ける。
- 上層部の一方的な決定で、自分ごととして感じられない。
- イントラネットにひっそり掲載され、誰も意識しない。
- 一方的な浸透施策や研修が押し付けがましく感じられる。
- 毎日の繰り返しや評価項目に入れられることでやらされ感が強い。
- そもそも企業理念に対する関心や興味が持てない
※株式会社エイチ・ティー「理念"浸透"の幻想 ~押し付け型から共鳴型に変えるには~」より
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多様化する事業や多様化する社員が、共に成長していくためには、会社が掲げる理念に対し、社員一人ひとりが「自分にとっての理念」をどう解釈し、共感できるかが重要です。
理念を押しつけるのではなく、社員が自分の価値観と照らし合わせて理解し、共感を深められるような環境を作ることこそが、方向性の一致に繋がるのではないでしょうか。
理念浸透から脱却し、会社の理念と社員の理念が共鳴し合い、共に育まれることで、より深い結びつきと持続的な発展を遂げることができるのです。